1-2. 企業は「経営機密レベル」データを廃棄している

「マーケティングは経営そのものである。」のにも関わらず、日本ではCMO(Chief Marketing Officer 、マーケティング最高責任者)が不在であると言われる事が多いです。
また、戦後以降の日本を復興させた企業のほとんどは、プロダクトアウトの世界で生きてきました。

つまり、「作ったら売れる」=「売れ続けることは、作り続けることである」という発想に近かったのかも知れません。
そうすると、「伝える事」が主流になります。その結果として、「マーケティング=(ほぼ)広告」のような状態が発生したように思います。

広告はマーケティングの1機能に過ぎないのですが、その戦略設計はマーケティングのコアです。この部分を外注する事で「広告代理店」の存在がとてつもなく大きくなってきたのでしょう。
そしてその時代の広告は「マス広告」でしたから、双方向(顧客との対話)という概念はなく、一方向的であったと言えます。

したがって、顧客(=商品)を企業が創造し、その伝達部分(=広告)をアウトソースしてきたというのが、多くの日本企業によくある流れだと思うのです。

しかし、今、時代は2つの点で大きく変わりました。

1つは「マーケットイン」へシフトしたことです。モノは溢れ、作っても売れない世界になっています。つまり、広告の背景にある戦略設計の重要度が格段に上がったと言えるのです。昔は「●●、新発売」でよかったものが「■■機能や▲▲機能付きで便利な●●、新発売」と独自性やベネフィットを訴求しなければ選ばれない=売れない時代になってきたのです。


もう1つ変わった点は、「インターネット広告」の登場です。広告は一方向的なものではなく、双方向的なものになっています。どういうことかというと、広告への反応(フィードバック)が明確にデータとして返ってくるようになっているので、顧客との対話とも比喩できるくらいに、顧客の広告への反応を企業が容易に把握する事が可能になったのです。

つまり、いつしか、企業のゲーム環境はガラッと変わってしまったということです。
しかし、企業の内部は変わっているでしょうか?

これまでCMOが不在でよかったということは、上記の解釈から可能です。しかし、これからは必要でしょう。経営の中でも最高レベルに重要かつ、難しい意思決定がそこに求められるからです。

さらにこのインターネット広告の存在は大きくなっています。ご存知の方も多いと思いますが、2019年、ついに、テレビ広告費をインターネット広告費が抜きました。これは1つの大きな転換点がきていると考えても良いでしょう。

まず、ここでは、「インターネット広告」の特徴について考えておきましょう。
大きな特徴としては以下の3つと言えるでしょう。

(1)効果のデータが見える
(2)24時間365日配信を管理できる
(3)ターゲットを細かく設定する事ができる

この中で、(1)は、フィードバックデータを得られるという意味でとても重要です。
ただ、現在の風潮としては、「効果がわかるので適切な媒体を選定できる」という文脈で使われる事が多いと思います。
もちろん、それ自体は間違っていませんし、結果データに応じて予算を分配する、「予算アロケーション」は広告費用の十数パーセントに相当する削減効果をもたらす事があります。

しかし、もう一つ、このフィードバックデータを得られるというのは重要な意味があるのですが、お分かりになりますでしょうか?

それは、「顧客の反応を見れる」という事なのです。
もう一度立ち返りましょう。マーケティングとは経営そのものであり、経営で果たそうとする企業の目的は「顧客の創造」でした。

「顧客の反応を見れる」ことは、「顧客の創造」に多大なるナレッジをもたらすということは想像いただけると思います。
そうなんです。私は、多くの企業においてこの観点が見過ごされている、ということをとても大きな問題と捉えています。

顧客は常に反応し続ける訳ではありません。
競合が現れ、市場環境が変わると、反応しなくなる、反応するようになるという変化があります。
これを、広告の結果データを見る事でいち早くキャッチする事ができるのです。

あるいは、ターゲットによって、商品によって、クリエイティブによって、顧客の反応が変わります。
こういった事が定量的に把握する事が可能になっているのです。

しかし、今行われているデータの使い方は、総合計のCPA(獲得単価、Cost Per Acquisition)の変動、
または媒体レベルでのCPAを追うに止まってしまっているのです。

いや、マーケティングの担当者であれば、詳細データを追うこともあるでしょう。しかし、経営者がそれを追っているでしょうか。

また、顧客の反応をよりよく得るためには、「実験」を仕掛けなければなりません。
ターゲティングを変えてみたり、クリエイティブを変えてみたりして、どんな訴求が誰に刺さるのか、または刺さらないのか、把握していくことができます。

これを経営レベルで把握しようとしている企業は果たしてどれくらいあるのでしょうか。

なんども繰り返しますが、企業の目的は「顧客の創造」なのです。
例えば、冷蔵庫を売っている企業があったとします。その冷蔵庫を、ユーザーは何に惹かれて買うのでしょうか?
省エネでしょうか?スピーディな冷却機能でしょうか?または、省スペース性でしょうか?デザインでしょうか?
そして、ターゲットによってそれは変わりますか?誰にどのような訴求をすべきですか?

これらが定量的に把握できるとしたら、商品企画の根本すら変わってもおかしくないのではないでしょうか?
インターネット広告ではこういうデータが把握できるのです。

もちろん、マーケットリサーチを使う事でもこういった調査の一部は可能でしょう。
でも、まさに購買する行動過程において、ユーザーが意識的、無意識的に関わらず反応するデータは、リサーチでは取得できないデータも多分に含むのです。

リサーチが不要といっている訳ではありませんが、インターネット広告のデータは、まさに「経営機密レベル」のデータと言っても過言ではないと思うのです。
そのデータが競合に入ったら恐ろしいと感じないでしょうか?

モノが溢れ、満たされていて、消費者のインサイトは多様化しています。
そんな現代において、より最適なターゲットやセグメントは、生き物のように変化をしているのです。

これらを、より細かく、科学的に把握し、戦略展開できる競合が現れたとしたら、危機感を感じないでしょうか?
口酸っぱいですが、現代は「顧客の創造」であり「モノの創造」の時代ではなくなっているのです。

それにも関わらず、このデータを軽視されているように思えてならないのです。
現在、多くのデータが使われず捨てられてしまっている。そのように感じるのです。

AI(人工知能)偏重の風潮も危険です。AIは手段として確かに有効な手段の1つです。しかし、その解釈・判断・決断のロジックは人間には解釈できるものではありません。これほどにデータが重要であるのに、AIに全てを任せようとなる事はどれほど危険な事と言えるでしょうか。

私自身、AIはとても興味深い分野ですが、使いこなす企業とそうでない企業に別れてくるだろうと考えています。この点は、また別の機会に述べてみたいと思いますが、ここでは1つその危険度のリトマス試験紙的なチェック方法を提示しておきましょう。

例えば「AIを使った●●」というツールがあり、そのAIをどのように活用しているか、その精度を確認せずに「すごいツール」と言ってしまっているとしたら、大変危険です。AIを使うことは何1つすごい事ではないと思います。

我々、サードベンダーとしては、ここに説明責任があると考えています。(もちろん、用途によりますが)それを怠ると「AI詐欺」と言われてもおかしくないと思いますし、将来というか早くそういう法律を整備すべきと考えています。

「AI」という言葉を使ってきたら、むしろかなり身構えるくらいで丁度良いと思います。御社では、全社員レベルでその意識を持てていますでしょうか?

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